企業法務
法務部門に限らず、企業内には文書が溢れかえっていますが、適切な文書の作成は、対内的にも対外的にも企業にとって極めて重要な作業です。
紛争の予防には契約文書のチェックが不可欠です。インターネットからダウンロードしたひな形を流用したいという相談を受けることがありますが、ネット上の情報は玉石混淆で、誰が作ったかも分からず当然には信頼できません。しかも、ひな形は当事者双方のために平等に作られていますから、無難ではあっても気休め以上の意味はありません。
契約の内容自体はもちろん、裁判で争う際の主張・立証の負担も考慮した条項を作成しておくことが肝要です。
ここでいう契約の相手方は、取引先に限りません。従業員との労働契約、就業規則、労働組合との労働協約も含みます。従業員との関係は、労働契約の成立から終了までの規制に止まらず、終了後をも視野に入れた競業や営業秘密の管理に関する指針・契約書の作成等も重要性を帯びています。
また、セクハラだ、パワハラだ、ブラックだとレッテルを貼られた企業は、名誉の回復に多大な労力を要します。日ごろから職員の研修にも気を配りましょう。
日常的に相談できる気心の知れた弁護士を確保しておくことをお勧めします。
債権回収・債権管理
(株)整理回収機構で福岡支店の業務をお手伝いした期間は、不良債権の回収業務を担当しました。破たん金融機関の処理には国民の税金が充てられましたから、負担の増大を避けるため、債権回収に当たっては回収の極大化を標榜して、徹底的な作業を行いました。
そのノウハウは一般の債権回収にも十分通用すると考えます。
IT問題
法律問題としてのITも避けて通ることはできません。
ソフトウエア開発委託契約に基づく契約当事者間の対立にとどまらず、一方当事者特にベンダ内部からの情報流出や成果物に対する権利をめぐる争いは日常的に発生しています。
ネットが決済の手段として利用され、ネット上で資金が移動し、営業秘密が持ち出され、個人情報が売買され、加工されて利用され、預けていた情報が一瞬のうちに消失するなど、新たな問題が日々発生しています。
1995年から日弁連コンピュータ委員会に所属していましたが、ひとつの問題にじっくり取り組む余裕がないほどめまぐるしく問題が発生し続けて来ました。
いま、またさらに、AIの利用に関する問題が生じています。
裁判のIT化が実現することになりましたが、これに弁護士がどのように対応すべきかだけでなく、企業は、将来、法廷で証拠として用いる可能性のあるデータをどのように保管し利用できるよう準備しておくのかも考えておかなければなりません。
電子商取引の展開が、既存の法の解釈を変える必要を生じているのか、解釈では賄えず法制度を変える必要を生じているのかも含めて、注意深く見ていかなければなりません。
法律問題か否かすらはっきりしない争点が多く存在するのもこの領域の特徴です。
倒産・再生・清算
事業経営に行き詰まったとき、再生を図るか清算するか、その手法としてどの法的手段を選択するかは、企業自体のみならず、従業員、取引先、保証人そして経営者の運命を大きく左右します。
金融円滑化法とその終焉後の国の政策は、企業の経営改善策の策定と銘打ったリスケジュールが中心になってきました。私自身、何度も研修に参加しましたが、この政策の実態は、金融機関を相手方とする借入金の返済方法の変更とそのための説得の仕方の研究で、倒産法制が想定する劇薬的な効果を利用することは考えられていません。このため、法律家よりも、数字の扱いに長けた士業や経営コンサルタントに任せることが相応しい政策であると感じられました。
しかし、世界経済が減速しつつあるといわれる中で、国内の企業がその影響を受けないはずがありません。リスケジュールや数字合わせによって取り繕うだけでは済まない時代が到来しつつあるように思われます。
個別に債権者と交渉することが他の債権者の目には疑わしく映るときには、全債権者を平等に扱う法的手段を選択することが不可欠になります。
法的手段を適切に選択し迅速に処理するためには、十分な打ち合わせと慎重な準備が必要です。
早目にご相談ください。
事業承継
大廃業時代が眼前に迫っているといわれています。中小企業にとって、後継者問題は喫緊の課題となっています。有益な事業を後世へ引き継ぐために、事業承継対策を整えましょう。
事業を他の企業に譲渡したり、社内の有力な幹部職員に引き継いでもらう場合はともかく、現経営者の親族とりわけ複数の相続人に承継させようとするときは、注意が必要です。経営権が複数の相続人に分散すると、後継者は企業をコントロールすることが難しくなります。経営権の一部を承継した1人が他の者と対立したときのことを考えれば容易に想像できます。経営権を相続の対象と考えると失敗します。相続人の1人に権限を集中させたいときは、他の相続人には経営権以外の十分な財産を相続させなければいけません。
承継のコストを考えるとそうもいかないことは分かりますが、会社が解体してしまっては元も子もありません。後継者へどのように会社支配権を引き継ぐかが最も重要です。
この考え方が、弁護士が会計士や税理士と最も異なる点かも知れません。
様々な士業の意見を参考にしていただくことが必要です。
行政事件
市民や企業が、国や地方公共団体またはその機関を相手方として請求をしたり、不服申立や訴訟を行うことを、広く行政事件と呼んでいます。
企業活動を展開する上で、行政と接触を持つことは不可欠です。行政は、多くの事柄について許認可等に関する強大な権限を有しているからです。指導、調査、検査などの名目による企業活動への関与も日常的です。
無論、法の正当な目的を実現するための作用である限り、これらの権限行使に服さなければなりません。
しかし、権限が誤って行使されることがないとはいえません。その場合には、市民の利益、企業の利益を守るために行政の誤りを指摘する必要があります。
近時、日弁連は、行政権が処分をする前の手続過程に弁護士が関与することの重要性に気付き、活動を活発化させようとしています。
当事務所も、この考えに強い関心を持ち、研究を続けています。